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笛吹き老女(続) [随筆]



 弦を擦る、或るいははじいて音を出す楽器は、古代ギリシャに今のハープに近い楽器で、キタラと呼ぶ物があったらしい。物を叩いたり、吹いたりして音を出すよりはその複雑さゆえに少し遅れを取ったのかも知れない。太い糸の端を口で挟んで弾くアイヌ民族のムックリなどは、弦を使った楽器のはしりと言えるだろう。
 現代は、最後に出現した弦楽器が巾をきかせていて、オーケストラの中では、一番古い筈の叩く楽器、すなわちドラムやシンバル、トライアングルの存在感がいささか薄れてしまったようである。もともと鍵盤を叩く楽器だったピアノの演奏方法も多様化してしまった。シンプルから複雑さと難解さに進むのは自然の流れなのだろうか。

 話しがすっかり逸れてしまったが、シンプルさを求めた楽器探しがすぐにフルートに結びついたわけではない。自分より一回り年上の知り合いが60歳をすぎてからギターを始められたと以前に聞き、年をとってからそういうのも悪くないなあ、と憧れていたので、先ずはギターを考えた。しかし、楽器が大きすぎて置き場所に困る、持ち運びも大変だという現実的な問題が壁になった。次に6本の弦を使い分けたり、何本かを同時に押さえて1つの音を出すということは、それだけ楽器が複雑になりピアノと同じ破目になりかねない。

 この二つの問題をクリアするシンプルな楽器とは?と考えた時に笛が頭に浮かんだのである。笛と一口に言っても、縦横、長短がある。第一、いくらサイズが合格でも教えてくれる人がいなければどうにもならぬ。いろいろ調べてみると、幸いなことに電車で一駅先にヤマ〇音楽教室があり、大人向けの、いわゆる趣味でフルートを始めたい人向けの講座があることがわかった。
 さっそく教室を訪ねて個人レッスンの見学をさせてもらった。案の定、楽譜は一つの音を読み取ればよくて、頭にも目にも優しそうだ。持ち運びの方も、90センチ×40センチほどの長方形のケースだから問題ない。

 入学の手続きを終え、フルート専門店で銀(メッキ)色に輝くフルートを買った。

 初レッスンは、ヒーともフーとも音が出なかったが、二カ月半過ぎた今は小さな曲ならば吹けるようになった。目的をもって指を細かく動かすのは老化防止にいいわよ、と友達は言ってくれるが、それは結果論であって、今はただ興味深々に楽しく指を動かしている。

 フルートの音色は、どこかのんびりとして穏やかである。ルイ十四世の時代、ベルサイユ宮殿でも演奏されたというこの優雅な楽器は、恐らく自分にとって最後の趣味になるだろけれども、酸欠で倒れるまで付き合ってみたいものである。
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 今から26年も昔のお話しでした。体力も減少する一方で、もう無理!と分かったのは何才の時だったでしょう、買ったフルート専門店に持って行き、相談をすると下取りをしてくれました。流石は老舗!と感心したものです。
 貴方は楽器を演奏されますか?  読んで頂き有難うございました!

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